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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)64号 判決

原告

長谷川紀夫

外一九名

右原告ら訴訟代理人

斎藤鳩彦

原田敬三

被告

城東郵便局長

小西幸男

被告

東京郵政局長

松澤經人

右被告ら指定代理人

榎本恒男

外一一名

主文

原告らの被告城東郵便局長に対する訴えをいずれも却下し、被告東京郵政局長に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1被告城東郵便局長が、昭和五七年三月三〇日各原告に対し、各原告の住宅をあて所とする普通取扱い通常郵便物について、同年四月一日以降各原告が法定の郵便受箱の設置されたことを同被告に通知するまでの間、あて所の各原告の住宅への配達を停止した処分は、これを取り消す。

2被告東京郵政局長が昭和五七年一一月二日原告らに対してした被告城東郵便局長が、昭和五七年三月三〇日各原告に対し、同年四月一日以降各原告が法定の郵便受箱の設置されたことを同被告に連絡するまでの間、各原告及びその世帯員(同居人を含む)あての普通取扱い通常郵便物を城東郵便局に留め置いて、あて所まで配達しないことを決定してその旨通知し、実際にも同年四月以降、法定の郵便受箱が設置されていないことを理由として、各原告の住宅をあて所とする普通取扱い通常郵便物を同郵便局に留め置いてあて所の各戸まで配達していない処分の取消し(又は撤廃)を求める審査請求を却下した裁決は、これを取り消す。

3訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1被告城東郵便局長の本案前の答弁

(一) 原告らの被告城東郵便局長に対する訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2被告らの本案に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1原告らはいずれも東京都江東区に所在する住宅、都市整備公団大島四丁目団地内の集団住宅に居住しているものであり、被告城東郵便局長は原告らの各住宅への郵便物の配達を受け持つ城東郵便局の長である。

2同被告は、原告らの居住する各集団住宅はいずれも郵便法(以下「法」という。)五五条の二及び郵便規則(以下「規則」という。)七六条の三にいう「高層建築物」に該当しその出入口又はその付近に規則七六条の四に定める規格の郵便受箱が設置されるべきところ、これがないとして、昭和五七年三月三〇日各原告に対し、規則七六条の五第一項二号にしたがつて同年四月一日以降各原告が右の郵便受箱が設置されたことを同被告に連絡するまでの間各原告(世帯員及び同居人を含む。)あての普通取扱いの通常郵便物を城東郵便局に到着の日から一〇日間留め置きその間に各原告の出局があれば交付するが出局がなければ差出人に還付してあて所の各原告の住宅への配達はしない旨通知し(ただし原告石原、同渡辺については同居の家族を通じて通知した。)、実際にも同年四月一日以降右の郵便物をあて所の各原告の住宅に配達しなくなつた(以下この措置を「本件措置」という。)。

3しかしながら、本件措置は次のとおり違法である。

(一) 規則七六条の五第一項二号によれば、「高層建築物」の居住者等は、階段の昇降を要しない階の者を除いて、前記の郵便物につき郵便受箱又は受取代理者の事務所等までしか配達を受けられない点において法五六条、規則七三条によりあて所の「住宅等」まで配達が受けられるその他の建築物内の「住宅等」を使用する者に比べ郵便の利用上不利益な取扱いを受けることが明らかであり、規則七六条の五第一項二号は郵便の役務をあまねく公平に提供すべきことを定め郵便の利用について差別することを禁じた法一条、六条に反するから、これに基づく本件措置は違法である。

(二) 従前の規則は「住宅等の出入口がある各階ごとに昇降することができる昇降機で郵便配達員が自由に使用することができるものを設備しているもの」についてはこれを「高層建築物」から除外するという定め(いわゆる昇降機条項、昭和五三年郵政省令第三一号による改正前の規則七六条の三第二号)を置いていたにもかかわらず、右の改正によりこれが削除された。このような改正は郵便事業における郵便利用者ないし受益者のあまねく等しい郵便役務の提供を受ける権利(法一条、六条)を侵害し郵便事業の本質に反するものであるから、右の改正の結果なされた本件措置も違法である。

(三) 信書の秘密を害することを禁じた規定である法九条は郵便官署の郵便物取扱方法に由来して信書の秘密を危険にさらすことを禁止する趣旨をも含んでいるところ、規則七六条の四が定める郵便受箱の規格は具体性に欠けあるいはこれに基づく郵便受箱はその構造上郵便物を保護するのに充分でなく、このような郵便受箱を一般公衆の自由に通行することができる建物の出入口等に設置することを要求する制度は配達された郵便物に対する受取人の支配力を著しく弱め、配達の方法に起因して信書の秘密を害し又は危険にさらすものであり、法九条の趣旨に違反するというべきであるから、かかる違法な郵便受箱制度を前提になされた本件措置は違法である。

(四) 「高層建築物」の多くは賃貸借の目的となつている建物であるが、賃借人たる受取人は自ら郵便受箱を設置する権利も義務も有せず、賃貸人が設置する郵便受箱を受け入れるかどうかの自由を有するにすぎないから、これらの建物に郵便受箱の設置がないことを理由に受取人を不利益に取り扱うことは許されない。しかも、かつて存した高層建築物郵便受箱設置費補助金交付規則による郵便受箱設置のための補助金交付の対象ともされず、費用負担を軽減する行政措置にもあずかれない。このような郵便受箱制度は、郵便事業の直接の利害関係者である郵便受取人の法的主体性を殆ど抹殺するものであり、個人の尊厳を冒涜するものであつて、このような制度に基づく本件措置は憲法一三条に反し違憲、違法である。

4そこで原告らは被告東京郵政局長に対し本件措置の取消し又は撤廃を求める審査請求をしたが、同被告は昭和五七年一一月二日、本件措置は行政不服審査法一条にいう「処分その他公権力の行使に当たる行為」ではないとしてこれを却下する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

5しかしながら本件裁決も次のとおり違法である。

(一) 原告らは本件措置により従来行われてきた郵便物のあて所への配達が停止されたことをとらえ、これを違法として審査請求をしたのに、被告東京郵政局長は本件措置を郵便物の留置と郵便局の窓口での交付サービスとしてとらえ、あて所の受取人である原告らが郵便物を受取るために出局せねばならず郵便物の到着後一〇日間を経過するとこれが還付されるという不利益をその内容としていない。したがつて本件裁決は原告らから審査を請求された事項について審査を行わないところの、理由齟齬ないし審理不尽の違法がある。

(二) また本件裁決は本件措置が行政不服審査法一条による不服申立ての対象とはなりえないとしているが、これは後記7のとおり同条の解釈を誤つたものである。

6よつて原告らは本件措置及び本件裁決の各取消しを求める。

7本件措置は行政不服審査法による不服申立て又は行政事件訴訟法による抗告訴訟の対象となる行為である。

(一) 郵便利用関係は公法上の権力関係にほかならず、本件措置も住所をあて所とする郵便物の配達を受けうる原告らの公法上の権利又は地位を侵害する被告城東郵便局長の処分その他公権力の行使に当たる行為である。

(1) すなわち、一般に営造物の設置目的を公法的原理の支配により達成するか、私法的原理の支配により達成するか、あるいはその組合せにより達成するかは相当程度立法政策の問題であるが、郵便のように厳格に国家の独占を貫く営造物については公法的原理の支配に委ねるのが通常である。

とりわけ近代郵便制度は低廉な料金で対抗する近距離便を扱う競業者を排して郵便事業を国家の独占とすることにより確立され、これにより全国均一料金を実現させ、なるべく安い料金であまねく公平に郵便役務を提供するという事業の目的を達成し公共の福祉の実現に寄与することをはじめて可能ならしめたのであるから、郵便事業の国家的独占及びこれによる均一料金制は、全国的市場の発達と個人の自由と平等の確保を基礎とする近代国家が用意すべき通信手段のあり方とも深く結びついて、近代郵便制度の不可欠の経済的技術的特質とされているのであり、郵便事業の国家的独占についての厳格な規定も近代郵便の本質に根ざした法律による保障以前の必然的な法的表現にほかならない。そしてわが国では郵便事業の独立採算制と収支相償の原則が法定されている(法三条、郵政事業特別会計法一条)が、このような郵便事業の企業性も均一料金制がめざす公共性の手段として存するものにすぎず、右の原則はあくまで公共性の結果として期待されるものであり、公共性と企業性は上下の関係に立つのである。このようにもともと郵便事業は民間企業の業務を国が代つて営んでいると考えるのは妥当でなく、民間企業に任せるのではその公共性の高い事業目的を達成することはできないことから必然的に国の独占事業とされているのであり、私的経済活動の規範である法律関係にはなじまないのであるから、その利用関係が公法的規律に服するのは明らかである。

営造物の利用関係を原則的に私法関係であるととらえる立場にあつても、郵便のように国の独占を貫く営造物については私法の適用が排除されるとするものや、公法的特色のある実定法の規定が存する限度で公法関係であることを承認するもの、あるいは契約の相手方の選択や契約内容に自由意思を容れる余地がなく正当の事由なく利用を拒絶することもできない営造物については契約の実体をもつて説明する必要がないとするものがほどんどであり、郵便の利用関係についてもこれを単純な私法関係であるということはできない。のみならず私法関係説を貫く立場は前記の近代郵便がもつ公共性保持のための経済的技術的特質の意義を理解していないというべきである。

(2) 元来公法と私法の区別は、個々の法規が行政目的の実現のために行政権の主体に優越的地位を認めその発動に優勝の力(公定力、不可争力など)を保障しているか、又は行政目的の達成のために公共の福祉の実現に第一義的意義を認めている場合には公法であり、対等の私人相互間の関係として当事者の自主自律に委ね(当事者処分主義)、当事者間の利害調整を目的としている場合は私法であると解して妨げない。

これを郵便法令についてみるに、郵便法令は下命又は禁止一〇項目、許可一項目、免除六項目、特許一三項目、認可・確認各一項目、公証四項目、通知一四項目、受理九項目の公権力の行使についての規定を配し、その全分野にわたり行政処分の体系に貫かれているのである。したがつて郵便物の差出しや配達等の取扱いにおいて郵政当局には処分主義的権利はなく厳格に法令に従つた取扱いを行うべき職務権限を与えられているだけであつて、郵便法令は右のような公権力の行使によつて郵便事業の目的を達し、国の法律秩序の維持・安定あるいは国民相互間の利害の調整という後見的役割を果していることが明らかである。そしてこれらの郵便法令の規定は商法上の物品運送契約に関する定めとは共通性をもたないほど異なつており、また郵便の利用についてこれらの規定によらないことは罰則をもつて禁じられていて当事者の自由意思を容れる余地を残していないのであるから、郵便法令を私法関係における附従契約の普通契約約款と同視することは誤りである。のみならず郵便法令にあつては国家独占を侵害する者を処罰する規定(法七六条)、未納料金を滞納処分の例により徴収する規定(法三七条)、不足料金の二倍額を受取人が納付すれば郵便物を送達する規定(法五一条)、書留郵便物以外の郵便物について一切の賠償の責めを負わないとする規定(法六八条以下)など郵便利用関係を私法関係とする立場からは法的に説明のできない規定が盛り込まれているのである。結局郵便法令のもとでは郵便の利用条件は定型的に定められ郵便官署の承認・指定等の行政行為により具体化されることになつているのであつて、郵便利用関係が公法上の権力関係であることは明らかである。

(3) 郵便法令は郵便利用関係を前納による郵便料金付きの郵便物の差出しと郵便役務の提供という公法上の義務との対応ととらえている。

このことは現行法上郵便物の配達・交付と郵便料金の支払いとが対価関係に立つとする規定が存在せず、郵便切手は郵便物の差出しとは関係なく郵政大臣が発行し郵政省又は法定の売さばき人が公衆に販売し(法三三条)、不納料金は滞納処分により徴収するという定めになつている(法三七条)ことからも窺えるところである。

そして右のような郵便役務を提供する公法上の義務の履行を担保しているのも、郵便営造物の管理法令としての郵政省設置法、国家公務員法以下の行政組織諸法令、公務員諸法令並びに法七九条以下の郵便利用に関する刑罰規定といつた公法規定である。

(4) 本件措置の根拠である法五五条の二、規則七六条の五第一項二号は郵便利用における右のような国の公法上の義務を軽減する要件と効果を定めたものであり、契約の履行方法を定めたものではないから本件措置は具体的に右義務を軽減する行政処分である。

すなわち、郵便利用関係にあつて国は規則七三条により郵便物を受取人に対しそのあて所に配達するという郵便役務を提供すべき公法上の義務があり、したがつて受取人は自己あての郵便物の配達をあて所たる住所において受けうるという公法上の権利ないし地位があるところ、本件措置は前記各規定により高層建築物に居住する原告らにあてられた郵便物につき郵便局に留め置いて受取人である原告らに配達しないというのであるから、明らかに国の郵便役務提供の義務を軽減させるものであり、原告らの郵便法令上の権利ないし義務を直接的に侵害する処分である。

これを郵便利用関係を私法上の契約とみたならば、ひとたび前納料金を受領して差出人との間で配達の債務を負つたはずの郵便物について設置義務者も定かでない郵便受箱がないというだけの理由で右の債務が軽減されるということになり、条理上も不都合である。

したがつて、本件措置が被告城東郵便局長の処分その他公権力の行使に当たる行為であることは明らかである。

(二) 郵便利用関係が公法上の権力関係ではないとしても、郵便法令による郵便の利用条件等の定めは、自主自律の当事者間の私益の調整のためではなく、公共の福祉の実現を第一義的目的として、普通契約約款に相当するものを直接法令の形式で定めたものといえるのであるから、これを公法上の管理関係又は公法上の当事者関係と解することもできるが、このような理解に立つても、本件措置は受取人たる原告の前記の地位又は権利を害するものであるから、前同様なおこれを行政処分というのに妨げない。

また郵便利用関係を契約関係とする限りにおいては受取人は契約当事者ではないが、受取人は物品運送契約上の荷受人と類似の契約関係人として、配達又は交付される郵便物の受取りや一定の郵便料金の支払い等を担当するから、商行為理論における荷送人の「身代り」又は特殊な「資格者」にも比すべき法的地位ないし利益を有するのであり、本件措置はこれらの地位・利益を害するものであつて、行政庁の優越的な意思の発動としてなされた事実行為たる公権力の行使であるとも解されるのである。

(三) 郵便利用関係を差出人と国との私法上の契約関係であると解したとしても、受取人たる原告らと国との間の法律関係は公法関係なのであるから同様にして本件措置は行政処分又は事実行為たる公権力の行使であるといえる。

また仮に受取人と国との間の関係が基本的に私法上のものであるとしても、本件措置は、公益上の理由により特に設けられた郵便物の配達停止の処分をなしうるという規定に基づく措置であるともいえるから、これを行政処分であると解して差支えがない。

(四) 以上の主張が理由がなく、郵便利用関係が私法上の契約関係であり本件措置が受取人との関係でも私法上の関係であるとしても、本件措置を「形式的行政処分」として位置づけこれを抗告訴訟や行政不服審査の対象とすることは可能である。

すなわち、現代社会における国の給付行政ともいうべき行政作用は、私人の活動と同様のものであつてもその目的や社会的性格において私人の作用と同様に考えられないものを少なからず有し、これらの給付は本来権力的作用である債権債務の関係でとらえることができるにもかかわらず、これらの給付に関する法律関係を処理していくためのより合目的的な技術として法律はそこに行政行為を介入させている。これらの給付決定は形式的には公権力の行使たる行政行為であるが、それは公権力の発動の実体を随伴しない形式的概念であり、「形式的行政処分」ということができるところ、これらの非権力的作用の適法性を司法的に確保するためには民事訴訟によるとすることは現代の行政を統制しうるところではなく、ここにおいて抗告訴訟を利用することが考慮されるべきであり、非権力的な行政過程そのものに処分性を認めるべきであつて、抗告訴訟の対象たる行政庁の処分には公権力行使の実体を欠いているが一定の行政目的のために国民個人の法益に対し継続的に事実上の支配力を及ぼす場合に関係国民が抗告訴訟の対象とすることを欲している「形式的行政処分」が含まれるというべきである。

本件措置も被告城東郵便局長が原告らに郵便受箱の設置を間接的に強制し郵便配達の省力化を徹底させるという行政目的のために原告らの郵便物の配達を受けうる地位ないし利益を継続的に否認しているのであるから、少なくとも「形式的行政処分」に当たる行為であり、原告らのこれらの地位又は利益を回復するには行政不服審査あるいは抗告訴訟による救済がはかられるべきである。

二  被告城東郵便局長の本案前の主張

1本件措置は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為には該当しないから、その取消しを求める被告城東郵便局長に対する本件の訴えはいずれも不適法である。

けだし郵便利用関係は、国と国民との間の権力的な命令・服従の関係ではなく、郵便利用者(差出人)と郵政省(国)との間の申込みと承諾に基づく私法上の契約関係であり、本件措置はかかる契約上の債務の履行の一態様であるからである。

(一) すなわち郵便利用関係の法的性質については、郵便制度の発足当時や旧郵便法(明治三三年法律第五四号)制定当時には、郵便法令が郵便逓送人に一定の特権を与えるなど国民の権利を制限し義務を課す規定をおいていたことなどもその根拠として、これを公法関係であると解するのが支配的であつたが、右のような規定も廃止された現行郵便法令のもとにおいては、これが料金の支払いと郵便役務の提供を目的とする私法上の契約関係であることに疑いはないのである。ただ郵便事業にあつては組織が巨大であつて郵便物の取扱量もぼう大であり、また国民一般に簡易、迅速かつ公平にその役務を提供しなければならないので、あらかじめ利用条件、すなわち契約の締結条件や契約内容(差出人や国の負う債務の内容)等が画一的に定められ、これに従つた場合にのみ郵便を利用しうるものとする必要があることから、この点を郵便法令が規定しているので一般の契約とは異なる附合契約であるといわれているのである。

そして郵便利用契約は郵便物の送達を目的とし、郵便物の差出しにより成立し配達その他の取扱いを完了することにより終了するものであるから、郵便利用契約において国が負う債務の内容は、当該郵便物が所定の要件を備え所定の料金が納付されているものであることを条件にこれを法令に従つて郵便物に表示された受取人等に配達又は交付するというものであり、その債務を負う相手方はもちろん差出人である。したがつて郵便物の配達・交付も郵便物差出しの際に合意される郵便利用契約に定められた役務の内容すなわち国が負う債務の内容である。

この国の負うべき郵便物の配達・交付という債務の履行方法、すなわち郵便物の送達の方法についても規則はあて所に配達することを原則としながらも、郵便物の種類、性質、配達過程をとりまく条件・状況等により多くの細かい別段の規定を設けているのである。そして規則は「高層建築物」の出入口等に郵便受箱の設置がない場合には郵便物を郵便局に留め置いて受取人の出局を待つて郵便局の窓口で交付するという送達方法を定めているが、これは郵便物の配達・交付方法の一つであり、差出人と国との間の郵便利用契約の合意内容となつていることは明らかである。

(二) このように郵便利用契約において国が負うべき債務の内容は郵便物を受取人あてに送達するというものであり、受取人に郵便物の所有権や占有権を移転させあるいは配達請求権を取得させるというものではなく、郵便物にかかる物権の移転は差出人と受取人との間の法律関係に原因を有するにすぎないのである。したがつて受取人は郵便利用契約に登場する法主体ではないから、国は受取人に対しては郵便物の配達等に関しては何らの債務を負わず、受取人が郵便物の引渡しを国に請求する権利や法的地位があるとするのは誤りである。このことは、郵便物の差出人が郵便物の配達又は交付が完了するまではいつでも郵便物のあて名の変更及び取もどしを請求できること(法四三条)や受取人には郵便物の受取りその他の義務もないと解されることに照らしても、明らかである。郵便物が受取人に配達交付されるのは国が差出人に対し郵便利用契約上の債務を履行する結果にほかならず、受取人が郵便物の配達を受ける利益は事実上のものにすぎないのである。

(三) もつとも郵便法令においては受取人が郵便利用関係に登場するかのような規定がある。しかしこのような規定をもつて受取人が郵便利用関係において郵便物を受領できる法的利益や地位を有することの例証とすることはできない。

たとえば料金受取人払い郵便の制度(法三二条の二、規則五六条の二ないし同条の八)や郵便私書箱の設置(法四九条、五〇条、規則七七条ないし八三条)については、それぞれ当該の取扱いを受けようとする者の申込みと国の承諾による別個の契約関係は存するが、郵便利用関係については前者において差出人が料金納付の義務を免れるというほかは何の影響も及ぼさないのであるから、受取人において当然に郵便物の受取りを期待しうる地位を生ずるわけではない。

また料金未納等の郵便物を不足料金等に一定の手数料を加算して納付すれば受取人がこれを受取ることができるという制度(法五一条)も、郵便役務の提供の条件すなわち国と差出人の契約内容そのものであつて、受取人は第三者として差出人に代つてその債務たる料金の支払いをなすにすぎないのであり、留置郵便物の受取人の配達請求(規則八四条三項)についても郵便局留置の表示の郵便物につき受取人から配達の請求があつたときにはこれに応じるという差出人と国との間の契約内容を規定しているにすぎないのである。

法五五条の二は公法上「高層建築物」の居住者など特定の者に郵便受箱の設置を義務づけたものでもない。「高層建築物」について郵便受箱がある場合にはこれに配達し、そうでないときは郵便局に留め置いて受取人の出局をまつて交付するということは、国と差出人との間の郵便利用契約における債務の履行方法の問題であり、国と受取人又は郵便受箱の設置者との間にはいかなる法律関係も存するものではないのである。

したがつて本件措置は、被告城東郵便局長が本来郵便物をあて所たる原告らの住居に配達する義務があるところこれを軽減する取扱いをしたというものではなく、これが行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないことも明白である。また同被告の昭和五七年三月三〇日付の通知も規則の改正による新規定が同年四月一日以降適用されることを原告らに周知するための単なる事実行為であることも明らかである。よつて原告らの同被告に対する訴えは不適法として却下されるべきである。

2(一)  郵便事業が国営とされていること(法二条)をもつて郵便利用関係が公法関係であるとすることはできない。

わが国において郵便事業が国営とされる理由は、郵便事業においては通信の秘密が確保され、料金が低廉なものとされ、あまねく公平な役務の提供が行われる必要があり、また郵便は独占事業とされるのが適当であり、かつ郵便役務の提供は停止されてはならず、外国の郵便事業経営者との連絡・折衝も行われなければならないところ、これらの要請を充足する事業主体として国は最も適した機能的特質をもつているからであり、郵便事業において国民に対し公権力を行使する必要があるからではない。郵便は高度の公共性を有し国民生活にとつて重要な役務であるものの、あくまで役務であり事業であつて、国の法律秩序の維持・安定、国民相互間の利益の調整というような役割を果すものでもないのである。

(二)  したがつて法一条にいう「なるべく安い料金」というのも収支を度外視した安い料金を要請しているものではなく、郵便事業特別会計法や法三条が採用する郵便事業における「独立採算」「収支相償」の原則を満たしたうえでの要請であるし、均一料金制も個々の郵便物の料金の算定及び料金徴収手続をきわめて簡便にし、郵便物を郵便ポストに投函するという制度を可能にするなど利用者の利便と郵便事業の能率的・効率的な運営に貢献するもので、収支相償の要請を確保しながらなるべく安い料金で郵便の役務を提供するという郵便事業の目的を実現するための基本的手段であるが、郵便利用関係を公法関係たらしめるものではない。

もつとも郵便利用関係が私法関係であるといつても、郵便法令の規定の全てが私法関係を規律するものではなく、検閲の禁止(法八条)、通信の秘密の確保(法九条)、検疫の優先(法一二条)、不納料金の徴収(法三七条)などの規定は公法の概念によつてとらえやすい。しかしたとえば滞納処分による不納料金の徴収手続が行政処分であるからといつて、郵便利用関係の法的性質までもが公法関係であるというのは本末を顛倒した議論である。郵便の利用条件や利用内容に関する規定は事業の集団性、大量性を考慮した郵便利用契約の約款たる性質をもつかあるいは一般私法に対する特別私法であることは疑いがないからである。

また郵便法令には郵便の利用にあたり郵便官署の承認・指定等を経るものとする規定があり郵便利用関係が公法関係であるかのような文言がみられるが、これらの規定もほとんどが私法関係を規律するものであり、郵便物の取扱いにあたつて生じた損害につき賠償の範囲や額を限定する規定も郵便利用契約の特殊性に由来する私法上の特別の規定である。

右のとおり郵便利用契約の内容を定めた郵便法令は一般私法たる民法の規定からみれば契約約款たる性質のものあるいは特別私法とでもいうべきものであるが、これらの規定が公益上の必要から私法関係と区別される理由はなく郵便事業の公共性・大量性・集団性などの特殊性が私法の性質までを変ずることはないからこれを権力的な公法関係に含めて考えることは誤りである。

また郵便物の配達・交付は郵便利用契約において差出人が受けるサービス、すなわち国が履行すべき債務の一部であり、料金の支払いと対価関係に立つことはいうまでもない。郵便切手を郵便物に貼付する料金の納付方法も郵便事業の集団性・大量性を考慮した簡易な弁済手段として定められたものであり、これが料金の支払いと郵便役務の提供との対価関係を切断するものではない。

(三)  郵便が国営とされることにより郵便官署は国の一機関となるからその組織・任務は公法である郵政省設置法などにより定められ、郵便物を取り扱う郵政事務官が国家公務員としてその任免、服務等について国家公務員法などの適用を受けることは当然であり、これらの法規や郵便業務に従事する者に対する罰則規定が郵便業務の適切な遂行、郵便役務の適正な提供を担保しているのも事実であるが、郵便物を扱う郵便官署の職務上の義務と郵便利用契約に基づく国の義務とは次元の異なる問題であつて、右のような公法上の規定の存在をもつて郵便利用関係が公法関係であるとするのは誤りである。

また郵便職員に業務の取扱いにあたつて裁量権がないのは郵便利用契約の当事者としての国の意思の一体性が確保されなければならないからであつて、これをもつて郵便職員に行政処分の権限が与えられていると解することもできない。

(四)  郵便事業が国の独占事業とされていること(法五条)も郵便利用関係が公法関係であることの論拠とはならない。

郵便事業の独占が定められたのは、郵便役務に対する需要が普遍的であり、二以上の事業体を並存させることが国民経済上ぼう大な二重投資となり、また採算のとれる地域のみを他に運営されると全国的組織を必要とする郵便事業の経営が困難である、という理由からである。いわば郵便役務をなるべく安い料金であまねく公平に提供することによつて公共の福祉を増進するという郵便事業の目的を達成しつつ「独立採算」「収支相償」の原則を堅持するための制度である。しかし郵便事業を独占とする規定及びこれを害する行為の処罰規定(法八七条)は郵便事業の企業主体としての特殊性に由来するものであつて、行政主体としての地位に由来するものではない。これらの規定が郵便事業の競争者たらんとする者にとつては公法的意味合いをもつものであるとしても、郵便利用者に対する関係において国に公権力を付与するものとは考えられないのである。

そして郵便事業の独占により担保される「あまねく公平の原則」も、全国各地の人々に対しすべて同一の役務を提供しなければならないことを意味するのではなく、同一の条件にあるものに対して差別的な規定・利用条件を設定してはならないことを意味するのであり、郵便の取扱いの必要から取扱地域、郵便利用数その他の異なつた利用条件を定めることは何ら差支えはない。

3仮に郵便利用関係をいわゆる「公法上の管理関係」又は「公法上の当事者関係」とみるにしても、これをめぐる紛争を抗告訴訟で解決すべきことにはならないから、この意味からも被告城東郵便局長に対する本件の訴えは不適法である。

なお郵便物の受取人が商法の定める物品運送契約における荷受人の地位に相当するということもできない。郵便法令には商法五八三条に当たる規定はないし、郵便物の送達は物品運送契約が予想しているのとは比較にならない取扱量を擁し一件あたりの料金もきわめて低廉であつて迅速かつ公平で定型的な取扱いが要請されるのであり、個々の郵便物につき受取人に一定の処分権を認め郵便局においてその指示に従うとすることは郵便の送達業務の特質に沿い難いのであるから、商法の右規定を適用・類推することはできないからである。

4本件措置については、郵便法令上、「決定」「禁止」、「取消」その他行政庁の「処分」であることを窺わせるような字句は用いられていないし、不服審査手続についても明定されておらず、本件措置自体国家の後見的役割を果たすというには程遠く、法律秩序の維持・安定を期するためという目的に出たものでもないので、本件措置が「形式的行政行為」に当たるとの原告らの主張も理由がない。

なお、原告らの右主張は、原告らが「原告らの各住所をあて所とする郵便物の配達を受けるという法律上の地位ないし利益」を有しているという主張を前提とするが、右主張自体誤りである。

三  被告らの請求原因に対する認否

(被告ら)

1請求原因1、2は認める。

(被告城東郵便局長)

2(一) 同3(一)のうち、法が郵便役務をあまねく公平に提供すべきことを定めていること及び郵便の利用につき差別することを禁じていることは認めるが、その余は争う。

(二) 同(二)のうち、従前の規則に「昇降機条項」の存したことは認めるが、その余は争う。なお右規定が改正されたのは昭和四二年郵政省令第一一号によつてである。

(三) 同(三)のうち法九条が郵政省の取扱中にかかる信書の秘密を侵すことを禁止していること及び規則七六条の四が郵便受箱の規格を定めていることは認めるが、その余は争う。

(四) 同(四)うち高層建築物郵便受箱設置費補助金交付規則がかつて存したことは認めるが、その余は争う。

3同6、7は争う。

(被告東京郵政局長)

4同4は認める。

5同5、7は争う。本件措置は行政不服審査法一条にいう処分その他公権力の行使に当たる行為には該当しないが、その理由は被告城東郵便局長の本案前の答弁と同一である。

また規則七六条の五第一項二号による取扱いを「あて所への配達の停止」と「郵便局の窓口での交付」とに切離して解釈し独立の行為として評価することは郵便法令のうえからは理解しがたいところである。

したがつて本件裁決には原告ら主張の違法はない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告らの被告城東郵便局長に対する本件訴えは、原告らを名宛人とする普通取扱いの通常郵便物について規則七六条の五第一項二号その他の規定に基づきこれを到着の日から一〇日間城東郵便局に留め置いて受取人の出局をまつて交付し出局がなければ差出人に還付するという本件措置の取消しを求めるというものであるから、本件措置が抗告訴訟の対象となるか否かにつき判断する。

二1一般に営造物ないし公企業の利用が、公法関係に服するのか、私法関係により規律されるのかは、営造物の種類・性質やその利用関係を定める個々の実体規定により決せられるものである。

これを郵便についてみるに、郵便利用関係は一定の対価の支払いのもとに信書その他の郵便物の送達を行わしめるなど郵便役務の提供を受けることを目的とするものであるが、このような郵便役務は他の物品の運送契約における運送行為とその本質を異にするものではなく、本来は私的経済作用に属すべき業務であり、公権力の行使を介在させるなど関係者を公法関係に服せしめることによつて郵便物の集配・輸送がなされるべき必然性もないから、郵便の利用関係は本来的には利用者(差出人)と国との私法上の契約関係であると解すべきである。

そして郵便事業は契約件数(取扱郵便物の量)がぼう大であり、かつ国民一般にあまねく公平にその役務が提供されるべきであるという公共性をもつことから、郵便利用契約においてはその契約締結の要件及び契約の内容などの利用条件についてあらかじめ画一的に定められている必要があり、差出人はかかる定めに従つてのみこれを利用できるという点で郵便利用契約は附合契約であるといえるが、かかる利用条件が郵便法令において直接に規定され、また事業の公共性の観点からこれに反する利用が罰則をもつて禁じられるなどの点が郵便利用契約の特色となつている。このように郵便法令のうち郵便の利用条件に関するものはいわば附合契約における約款に相当するものといえる。

2これに対し原告らは、郵便事業は公共性の高い国の独占営造物であるから、その利用関係は公法的規律に服するものであると主張する。

たしかに郵便は国民の日常生活に不可欠の基本的通信手段として高度に公共性を有する事業であり、郵便に関する料金をなるべく低廉とし、郵便の役務をすべての利用者にあまねく公平に提供し(法一条)、何人も郵便の利用について差別されることがないようにする(法六条)には、国による独占の事業とする(法五条)のが立法政策上適当といえる。このように郵便を国の独占事業としたのは企業経営的にみて国が事業主体として最も適した機能を有しているからにほかならず、郵便事業の運営が本質的に国民に対する公権力の行使としてなされることに基づくものではないし、また、公共性の高い国の独占事業であるからといつてその利用関係が性質上当然に公法的規律に服するものともいえない。

次に原告らは、郵便法令は多数の公権力の行使についての規定を配して全分野につき行政処分の体系に貫かれていると主張する。

たしかに国税滞納処分の例による不納料金の徴収規定(法三七条)は公法関係を定めた規定であり、右規定に基づく徴収は行政処分と解されるが、これは郵便利用の大量性、集団性、郵便事業の公共性などその特殊性にかんがみ簡便、迅速に債権を確保するため料金の不納付額の徴収について国税滞納処分と同様の方法をとることとしたものにすぎず、右規定から郵便利用関係の法的性質を公法関係とみることは相当でない。また、郵便物の取扱いに関し損害賠償事由及び賠償金額を限定しているが(法六八条)、これも前記の郵便利用関係の特殊性にかんがみ郵便事業を低廉、迅速、合理的に運営するための郵便利用契約の特則と解することができるし、料金未納又は料金不足の通常郵便物の受取りの規定(法五一条)も差出人と国との郵便利用契約に基づく国に対する債務の履行として受取人に差出人に代わつて料金の支払をすることができる場合を規定したものにすぎず、郵便利用関係を私法上の契約と解する立場と矛盾するものではない。さらに郵便の独占に関する規定(法五条・七六条)が郵便利用者を規律する規定でないことはいうまでもない。また、郵便事業の運営が郵政省設置法その他の行政組織法令、国家公務員法などの公務員関係法令及び郵便の事業の独占や公共性を害する行為の処罰規定(法七六条以下)等公法規定によつても担保されていることなどをもつて、郵便利用関係が公法関係であり郵便の利用条件は郵便官署の行政行為により具体化されるとするのも誤りであり、郵便法令がしばしば使用する「指定」「承認」などの行政行為を想起させる用語(法一四条一号、規則四六条等)もいずれも郵便利用の条件に関するものについては国の意思表示など私法上の行為と理解することができるのである。したがつて、原告らの右主張はいずれも理由がない。

3ところで郵便利用契約の基本的な内容は、差出人が郵便料金を支払うことの反対給付として国が郵便役務の提供を行うというものであり(この点郵便事業が均一料金制を採用していること(法二一条二項等)、不納料金が滞納処分の例により徴収されること(法三七条)、郵便法令に明文の規定がないことなどを根拠として料金支払いと郵便役務の提供とが対価関係にないとみることは、他方で郵便事業が「独立採算」「収支相償」の原則を採用してその企業性を宣言していること(法三条、郵政事業特別会計法一条)に照らしても首肯できないし、また郵便料金の支払いを郵便切手の貼付によるものとしていること(法三二条一項)が右の対価関係を否定することにはならない。)、郵便役務の内容、すなわち国が差出人に対して負う債務は差し出された郵便物を名宛人である受取人に送達することがその基本的内容であり、受取人に郵便物に関する権利を取得させることではない。このことは法四三条が差出人にあて名の変更・取もどし請求を認めていることからも肯認されるべきである。これを受取人からみれば受取人が自己あての郵便物を受領できるのは、差出人との問で合意された郵便利用契約における国の債務が履行されるからであり、郵便物に対する物権ないし債権的請求権があつたり、物品運送契約における荷受人に比する法的地位があるという理由によるのではない。郵便法令にしばしば登場する受取人についての定め(法三二条の二、五一条、規則八四条三項等)も差し出された郵便物につき受取人に何らかの権利があることを言明したものでないことはその趣旨から明らかであり、受取人が郵便物を受領できるのは事実上の利益にすぎないというべきである。

そして郵便利用契約における国の債務の履行の方法、すなわち郵便物の送達の方法も右契約の内容として郵便法令に規定されているところであつて、規則七三条以下の条項がこれにあたるのは明らかであり、これらが郵便物の差出しにあたつて差出人と国との間の契約内容となつていることも当然である。規則七六条の五の規定も「高層建築物」の住宅等にあてられた郵便物の配達の方法についての定めであり、右規定は、本来国が負つていた郵便物をあて所へ配達する義務を特に軽減したという規定ではない。したがつてこの規定によりとられた本件措置は差出人と国との間の郵便利用契約の合意内容を実現する行為にほかならず、受取人はその法律上の地位、権利について影響を受ける立場にはないから、本来かかる行為について行政不服審査の申立てや抗告訴訟の提起を行うことは許されないはずである。

以上のとおり、本件措置は郵便物の送達の一方法、すなわち私法上の契約の履行態様の一つにすぎず、本件措置の根拠となつた規則七六条の五に基づく取扱いを受取人に対する公権力の行使とするなど行政処分であると定めたり、これに対する行政不服審査法による不服申立てを認めるなどの規定は存在しない。

二したがつて本件措置は行政不服審査や抗告訴訟の対象となる行政処分その他公権力の行使に当たる行為には該当しないし、規則七六条の五をもつて国と差出人又は受取人との間を公法上の当事者関係と擬する定めであるともいえず、かつ、公権力の行使の実体を欠く国の行為に対し抗告訴訟を提起することは許されない。なお、原告らの本件措置が形式的行政処分に当たる旨の主張は、原告らが郵便物の受取人として各住所をあて所とする郵便物の配達を受けうる法律上の地位ないし利益を有する旨の主張をその前提とするところ、右主張が採用しえないことは既に説示したとおりであるから、右主張はその前提を欠き失当である。よつて、原告らの被告城東郵便局長に対する訴えはその余の点につき判断するまでもなくいずれも不適法というべきである。

三原告らは本件裁決の違法事由として審査請求をした事項について審査を行わない理由齟齬ないし審理不尽の違法があると主張する。

しかしながら、原告らが審査請求の対象としたのは被告城東郵便局長のした本件措置であり、これに対し被告東京郵政局長が本件措置は公権力の行使に当たる行為ではないと判断したことは当事者間に争いのないところ、前記のとおり本件措置は郵便物の配達・交付方法の一つであつて、右措置のうちには郵便物の留め置き、したがつてあて所への配達の停止と留置局窓口で行う交付が含まれているのであるから、本件裁決につき審査請求をした事項について審査を行わない理由齟齬、審理不尽の違法はない。

次に原告らは、本件措置が行政不服審査法による不服申立ての対象となりえないとした本件裁決は誤りであると主張する。しかしながら、右主張の理由のないことは既に説示したとおりである。

以上より明らかなとおり、被告東京郵政局長のした本件裁決に原告ら主張の違法はない。

四よつて原告らの被告城東郵便局長に対する訴えはいずれもこれを不適法として却下し、同東京郵政局長に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(時岡泰 満田明彦 菊池徹)

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